鹿児島県日置市吹上町入来。
集落の中を走っていると、畑の真ん中に何やら棒状の石が刺さっている場所があります。
名前は「矢石(やいし)」。
なんともシンプルな名前ですが、実はこれ、ただの石ではなく、この地域に伝わる由来を持った石なんだそうです。

近づいて見てみます。
……普通の石です(笑)。
棒状の石が地面に斜めに刺さっているだけなので、何も知らなければ「畑に落ちていた石をそのままにしているのかな?」くらいにしか思わないかもしれません。

ところが、この石にはちゃんと名前があり、さらに伝説まで残っています。
現地には吹上町教育委員会が設置した解説板がありました。

説明によると、この矢石は金峰山神社の所領を示す「膀示石(ぼうじいし)」、つまり境界を示す石ではないかという説があります。
そして、もうひとつ面白いのがこの地域に伝わる伝説。
昔、金峰山の神様と野間岳の神様が争いを起こしたそうです。
金峰山の神様は薄(すすき)の穂を矢にして投げ、対する野間岳の神様は石を投げました。
ところが、野間岳の神様が投げた石は金峰山まで届かず、途中で落ちてしまった。
それが、この「矢石」だと伝えられています。
さらに、この石を勝手に掘り起こすと病気になると恐れられていたそうです。
……なるほど。
だから畑の真ん中に石が刺さったままなのか。
実際に現地で見ると、農作業をするには普通に邪魔そうな位置にあります。
それでも動かさずに残されているところを見ると、昔からの言い伝えが地域の中で大切にされてきたことを感じます。
ただ、現在でも本当に「掘り起こすと病気になる」という言い伝えが守られているのかまでは分かりませんでした。
そもそも、農作業の邪魔だからといって勝手に抜いてしまう人がいても不思議ではなさそうですが、少なくとも私が訪れた時には、矢石は今も畑の中に残っていました。
矢石はこの場所だけではなく、吹上町内にはほかにも複数あるようです。
「矢石」で検索すると別の場所の矢石が出てくることもありますが、今回訪れたのは入来の集落にある矢石。
見た目は本当に何の変哲もない一本の石です。
でも、境界石だったのかもしれないという説があり、さらに金峰山と野間岳の神様の争いという伝説まで残っている。
こういう「一見するとただの石なのに、地元ではちゃんと名前が付いている」というものは、個人的に結構好きです。
畑の真ん中に今も残る「矢石」。
農作業の邪魔になりそうなのに、なぜか動かされずに残っている。
その理由が、昔からの言い伝えなのかどうか。
そこまでは分かりませんでしたが、そんなことを考えながら眺めるのも、こうした小さな史跡の面白さなのかもしれません。


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